はじめに
スポーツ界においてサプリメントの利用は避けられないものとなっています。パフォーマンス向上や筋肥大を目的としてさまざまなサプリメントが活用されていますが、その効果や安全性については議論が続いています。国際スポーツ栄養学会(ISSN)は、サプリメントの評価に関する権威ある組織として、科学的根拠に基づいた格付けを行っています。本記事では、ISSNのサプリメント評価について解説するとともに、その意義や最新動向にも言及していきます。
ISSNによるサプリメント評価
ISSNは、スポーツサプリメントを「筋肥大」と「パフォーマンス向上」の2つの観点から評価し、A、B、Cの3段階に格付けしています。評価の高いAランクのサプリメントには、クレアチン、EAA、β-アラニン、カフェイン、炭水化物、重曹、リン酸ナトリウム、水・スポーツドリンクなどが含まれています。
Aランクのサプリメント
Aランクのサプリメントには、筋肥大とパフォーマンス向上の両面で強力なエビデンスがあり、安全性も確認されています。中でもクレアチンは特に評価が高く、多くのアスリートに利用されています。
クレアチンは筋力増強効果が明らかで、さらに脳機能への影響も注目されています。特に軽度脳震盪の予防効果が期待されており、今後の研究成果が待たれます。
Bランク、Cランクのサプリメント
一方、BランクやCランクのサプリメントはエビデンスが不足しているか、効果が限定的とされています。シトルリンやグリセロールなどは、Bランクに位置づけられていますが、研究結果に一貫性がないため注意が必要です。
また、アルギニン、L-カルニチン、グルタミン、イノシン、MCTなどは、Cランクに格付けされており、ISSNによれば科学的根拠がないとされています。
サプリメント評価の意義
ISSNのサプリメント評価は、アスリートやスポーツ愛好家が適切なサプリメントを選択するための指針となっています。また、サプリメントメーカーにとっても製品開発の方向性を示すものであり、市場の健全化に貢献しています。
アスリートの健康と公平な競争の確保
ISSNの評価では、アンチ・ドーピング認証の重要性も強調されています。選手の健康を守り、公平な競争を確保するためには、適切なサプリメントの利用が不可欠です。ISSNの取り組みは、スポーツ界の公正さを維持する上で重要な役割を担っています。
また、サッカー選手を対象としたシステマティックレビューでは、カフェイン、クレアチン、プロテインの影響が検討されています。競技シーズン中のパフォーマンス維持にはクレアチンが有益とされ、個人の栄養状態に応じた適切な摂取が重要であることが示唆されています。
最新の研究動向の共有
ISSNの学会では、サプリメントに関する最新の研究成果が報告されています。例えばCBD製品については、スポーツ分野での有効性を裏付ける臨床試験結果がなく、その利用は危険であると指摘されています。
また、必須アミノ酸(EAA)についても包括的なレビューが行われ、筋タンパク質の合成や運動パフォーマンスの向上に有効であることが示されています。このように、ISSNは最新の研究動向を共有する場としても機能しています。
日本におけるスポーツ栄養の発展
日本ではこれまで、スポーツ栄養に関する情報が英語で提供されることが多く、発展が遅れがちでした。しかし、ISSNの取り組みにより、日本語でのスポーツ栄養教育プログラムが立ち上げられるなど、状況が変わりつつあります。
ISSN公認のスポーツ栄養スペシャリスト資格
ISSNでは、スポーツ栄養スペシャリスト(ISSN-SNS)という国際資格の認定を行っています。このプログラムを日本語で受講できるようになったことで、日本国内でもスポーツ栄養に関する知識を身につける機会が広がりました。
ISSN-SNSの資格を持つ専門家が増えれば、日本におけるスポーツニュートリションの水準向上が期待できます。選手のパフォーマンス向上や健康管理に貢献することができるでしょう。
日本のサプリメント認証制度の改善
ISSN東京大会では、日本におけるサプリメント認証制度の改善の経緯も紹介されました。日本にはサプリメントの定義がなく、エビデンスの乏しい製品が氾濫していましたが、情報開示や規制強化が図られつつあります。
今後、サプリメント市場の健全化が進めば、より質の高い製品が提供されるようになり、アスリートの健康被害リスクも軽減されることが期待できます。
サプリメント市場の動向
世界のスポーツニュートリション市場は、COVID-19の影響を受けつつも、オンライン販売の拡大などで回復の兆しが見られます。特にクレアチンについては、インフルエンサーの影響もあり、大幅な成長を遂げています。
市場の変化と新たな課題
プロテイン製品やクレアチンの販売は好調ですが、日米間で製品の認知度や価格設定に違いがあります。また、環境配慮の観点から、プラントベースのプロテインも注目を集めています。
一方で、eスポーツ向けの製品開発は新しい課題となっています。従来のアクティブ層とは異なるターゲット層へのアプローチが必要とされています。
サプリメント業界の規制強化
サプリメント業界では、情報開示や広告規制が強化されつつあります。インフルエンサーの情報発信については、連邦取引委員会による厳しい規制があり、企業からの支援を受けていることなどの開示が義務付けられています。
このような規制の強化は、消費者保護の観点から重要です。一方で、サプリメント業界への影響や課題もあり、今後の動向が注目されます。
まとめ
国際スポーツ栄養学会(ISSN)は、サプリメントの評価を通じて、スポーツ界における適切な製品利用を促進しています。科学的根拠に基づく評価と最新の研究動向の共有は、アスリートの健康と公平な競争の確保に寄与するとともに、サプリメント市場の健全化にもつながります。
日本においても、ISSNの取り組みを通じてスポーツニュートリションの発展が期待されます。サプリメントに関する正しい知識の普及と、質の高い製品の供給が重要となるでしょう。スポーツ界がサプリメントの適切な利用を実践し、健全な発展を遂げることが望まれます。